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名古屋地方裁判所 平成10年(ワ)4478号 判決 2000年6月28日

本訴事件原告

髙木智勢子

ほか二名

被告

池田敏和

ほか一名

反訴事件原告

港大宝運輸株式会社

被告

髙木智勢子

ほか二名

主文

一  被告らは、連帯して原告髙木智勢子に対し金四一四万三八四五円、原告髙木宏昇に対し金二〇七万一九二三円、原告髙木克昌に対し金二〇七万一九二三円及びこれらに対する平成八年八月七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らは、被告港大宝運輸株式会社に対し原告髙木智勢子が金五二万二五二一円、原告髙木宏昇及び原告髙木克昌が各自金二六万一二六一円及びこれらに対する平成八年八月七日から各支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  被告港大宝運輸株式会社のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は本訴反訴を通じてこれを一〇分し、その二を被告らの、その余を原告らの負担とする。

六  この判決は、第一、二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

(本訴請求)

被告らは、連帯して原告髙木智勢子に対し金一六六五万六九四一円、原告髙木宏昇に対し金八三二万八四七〇円、原告髙木克昌に対し金八三二万八四七〇円及びこれらに対する平成八年八月七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(反訴請求)

原告らは、被告港大宝運輸株式会社(以下「被告会社」という。)に対し、原告髙木智勢子が金六七三万九三五一円、原告髙木宏昇が金三三六万九六七五円、原告髙木克昌が金三三六万九六七五円及びこれらに対する平成八年八月七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、左記一1の交通事故の発生を理由に原告らが被告らに対し民法七〇九条、七一五条により、被告会社が原告らに対し民法七〇九条によりそれぞれ損害賠償を求める事案である。

一  争いのない事実等

1  交通事故

(一) 日時 平成八年八月七日午前四時五九分ころ

(二) 場所 愛知県海部郡美和町大字丹波字前並五七番地先路線上

(三) 第一車両 被告池田運転の大型貨物自動車(LPGバルクローリー車)

(四) 第二車両 訴外亡髙木道雄(以下「亡道雄」という。)運転の普通乗用自動車

(五) 態様 信号機のある交差点内の衝突

2  当事者

(一) 原告らは亡道雄の相続人である(相続分原告髙木智勢子二分の一、原告髙木宏昇及び原告髙木克昌各自四分の一。甲四、弁論の全趣旨)

(二) 被告池田は被告会社の従業員であり、本件事故は被告池田が被告会社の業務遂行中に発生したものである。

二  争点

1  事故態様、亡道雄及び被告池田の過失

(一) 原告ら

本件事故は、亡道雄が運転する第二車両が青信号に従って本件交差点内に直進進入したのに、対向方向から交差点内に進入した被告池田が運転する第一車両が第二車両を無視して右折を開始した安全運転義務違反の過失による。

(二) 被告ら

本件事故は、対面信号が赤信号となっているにもかかわらず亡道雄がこれを無視して制限速度を著しく上回る高速で本件交差点に進入したことに起因するものであり、被告池田には過失がない。

2  原告らの損害

原告らは以下の損害を請求する。

(一) 葬儀費用 一五〇万円

(二) 逸失利益 三一一九万三八八一円

亡道雄の平成七年度の収入五四四万七一二七円を基礎収入として、死亡時の年齢五八歳から労働可能年齢六七歳まで九年の新ホフマン係数八・五九〇を乗じ、生活費控除割合を三分の一とする。

(三) 慰謝料 三〇〇〇万円

(四) 車両損害 六二万円

3  被告会社の損害

(被告会社)

(一) 車両損害(請求額一一八二万五九五〇円)

シャーシ購入費用七八〇万八九五〇円、タンク部分乗せ替え費用四〇一万七〇〇〇円。

(二) 休車損害(請求額一六五万二七五二円)

一〇六日について一日当たり一万五五九二円。

(原告ら)

(一) 車両損害のうちシャーシ購入費用を新車購入価格とすることは相当ではない。第一車両は平成元年式で五年の償却期間を過ぎており、現実の使用状況から償却を八年と考えると中古車としての時価は新車価格七三三万円の一三・三パーセントである九七万四八九〇円が相当である。タンク乗せ替え費用もタンクの時価(平成元年当時一〇一六万円の一三・三パーセントとすると一三五万一二八〇円)以上になるとすればその請求は認められないばかりでなく、タンク部分はシャーシよりもはるかに長期間の使用に耐えるものであるからいずれ乗せ替え費用は必要となるものであるからその全額を損害とする請求は不当である。また全塗装も必要ではない。

(二) 休車期間が一〇六日間というのは過大である。

第三争点に対する判断

(成立に争いのない書証、弁論の全趣旨により成立を認める書証については、その旨記載することを省略する。)

一  事故態様、亡道雄及び被告池田の過失

1  甲第二号証、第八ないし第一〇号証、乙第八号証、証人川瀬真二の証言、被告池田俊和本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件交差点は、南北に通じるほぼ直線の県道と東西に通じる道路が交差する信号機により交通整理の行われている平坦な交差点である。本件事故当時の本件交差点における信号サイクルは、南北の県道については青信号表示四四秒、黄色信号表示三秒、赤信号表示かつ右折矢印信号表示三秒、赤信号表示のみ四〇秒となっていた。南北の県道は、本件交差点の南で跨線橋のため南から北に下り坂となっており、本件交差点の八〇メートル以上北の県道上に歩道橋が設置されている他は見通しを妨げるものはない。本件事故当時南北県道の制限速度は時速五〇キロメートルであった。

(二) 被告池田が運転する第一車両は、南北の県道を南から本件交差点に向けて走行して本件交差点で右折進行し、第二車両と衝突した。

(三) 亡道雄が運転する第二車両は、南北の県道を北から本件交差点に向けて走行して本件交差点に進入して第一車両と衝突した。第二車両は、本件交差点北側の横断歩道から北に一〇・六メートル及び八・六メートルの位置をそれぞれ始点とする二条のスリップ痕があり、このスリップ痕は第一車両との衝突地点まで左側(東側)二六・四メートル、右側(西側)二四・六メートルの長さがある。

(四) 川瀬証人は、南北の県道を北から本件交差点に向けて時速約八〇キロメートルで進行していたところ、本件交差点北側の交差点で第二車両に追い越され、その後、第一車両と第二車両が衝突するところを目撃している。

2  右に認定した事実、甲第八号証(川瀬真二立会の実況見分調書)、第一〇号証(川瀬真二の陳述書)及び証人川瀬真二の証言によれば、同証人は、本件事故後警察官に対して本件事故当時の信号は青表示であったと述べていること、また同証人自身、普段、本件交差点北側の交差点を青信号で通過すると本件交差点は青信号で通過できると考えており、本件事故直前に本件交差点北側の交差点で第二車両に追い抜かれた後、歩道橋よりも北で第一車両が南から対向進行して右折車線に入ったのに気づいていた、その際に信号を確認してはいないものの、川瀬証人自身はそのまま進行しようとしていた、その後第一車両と第二車両が衝突する瞬間を目撃し、減速して本件交差点に近づき、本件交差点に入る直前に信号を見たら青信号であったと述べていること、亡道雄運転の第二車両は見通しの良い本件交差点付近を少なくとも時速毎時九〇キロメートルで本件交差点直前まで進行した後に急ブレーキを掛けているものと認められることに照らすと、本件事故当時、本件交差点の信号表示は青信号であったものと認めることができる。

これに対して被告池田は本件事故当時の信号表示は青矢印信号(直進車両は赤信号)であったと供述しているところ、被告らは、証人川瀬は亡道雄の同僚であること、同証人が第一車両の事故前の走行車線及び本件事故後の第一車両の停車していた向きについて客観的な証拠と反する証言をしていること、甲第八号証には同証人が平成八年八月一二日(本件事故の五日後)に本件事故当時の南北の信号は青色であったと指示説明していることが認められるが、同証人は事故の際信号の色を確認したか否か明確に供述できなかったことに照らし信用性がないと主張する。

しかし、川瀬証人の証言によれば、同人は亡道雄と同じ運送会社に勤務していたものの顔と名前を知っていた程度の付き合いで話をしたことはないこと、本件事故直後は急いでいたこともあり他の通行人が通報するだろうと考えて停止せずにそのまま走り去ったこと、事故当日の仕事が終了した後に事故の話を聞き、勤務先の社長を通して警察に報告したというのであって、日ごろの亡道雄との関係や目撃したことの報告に至る状況に照らしその証言に信用性がないとまでは言うことができない。また、被告らが指摘するように、第二車両が事故直前に走行していた車線、事故後の第二車両の向きについて同証人の証言は客観的証拠と食い違うことが明らかであるが、自車を追い抜いた車両の追い抜き後の走行車線の状況や目前で突如発生した事故により停止した車両の向きについて証人が明確な記憶がないことは通常予想しうることであること、これに対し、本件事故の五日後に同証人は警察官に対して信号表示は青であったと指示説明していることと、事故から約三年が経過した本件における証人尋問の際に時速約八〇キロメートルで前方を見て走行していた証人自身が前方交差点の信号について信号を確認したか否かは明確に記憶していないものの、少なくとも本件交差点をそのまま走り抜けるつもりで走行していたと記憶している旨の供述とは決して矛盾するものではなく、むしろ本件事故直前に前方の信号表示が赤表示ではなかったと推認し得る点で一致するものである。そして、この供述は、前記の第二車両の走行車線や同車両の停止時の向きについての記憶とは異なり、証人自身の経験と判断(前方交差点で停止せずに走行するつもりであった)についての記憶であるから十分に信用することができる。

したがって、右の認定に反する被告池田の供述は信用することができない。

3  以上に認定した事故状況に照らすと、被告池田は青信号表示の交差点において直進してくる第二車両の安全を十分に確認せずに大型車の右折を開始した点で過失があるが、他方、亡道雄についても対向車両の動静を注視する義務に違反し、かつ、制限速度を三〇キロメートル以上超過して走行していた点で重大な過失があることが明らかである。そこで、亡道雄と被告池田との過失割合は、右の過失の状況に照らすと、亡道雄が二五に対して被告池田が七五とみるのが相当である。

二  原告らの損害額

(人身損害)

1 葬儀費用(請求額一五〇万円) 一二〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告らが亡道雄の葬儀費用を相当額支出したことが認められるところ、本件事故と相当因果関係に立つ損害として認められるのは、このうち一二〇万円の範囲とみるのが相当である。

2 逸失利益(請求額三一一九万三八八一円)二三二三万〇二五四円

甲第四号証、第五号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、亡道雄は本件事故の前年である平成七年の年収が五四四万七一二七円であったこと、扶養家族はなかったこと、本件事故当時五八歳であったことが認められる。そこで、六七歳までの労働可能期間が九年(ライプニッツ係数七・一〇七八)、生活費控除割合を四〇パーセントとし、本件事故による逸失利益を二三二三万〇二五四円と認める。

5,447,127×(1-40%)×7.1078=23,230,253.5

3 慰謝料(請求額三〇〇〇万円) 二六〇〇万円

弁論の全趣旨により認められる亡道雄の年齢、生活状況等に照らし、右の額を本件事故と相当因果関係に立つ損害として認めるのが相当である。

4 小計 五〇四三万〇二五四円

5 過失相殺

前記認定のとおり亡道雄の過失割合を二五パーセント認めるから、これを右の損害合計額から控除すると、残額は三七八二万二六九一円となる。

50,430,254×75%=37,822,690.5

6 損益相殺(三〇〇〇万円)

弁論の全趣旨によれば、原告らは本件事故による損害の填補として既に三〇〇〇万円を受領していることが認められるから、これを右の残額から控除すると、被告らが賠償すべき人的損害は七八二万二六九一円となる。

(物的損害)

1 車両損害(請求額六二万円) 六二万円

甲第二、第七、第一二号証及び弁論の全趣旨によれば、第二車両は本件事故により全損となり、その損害は六二万円とみるのが相当である。

2 過失相殺

右の物的損害額から前記認定の亡道雄の過失割合を控除すると、残額は四六万五〇〇〇円となる。

(合計額)

したがって、被告らが賠償すべき原告らの損害額は合計八二八万七六九一円となる。

三  被告会社の損害額

1  車両損害(請求額一一八二万五九五〇円) 二七二万五一七〇円

(一) 被告会社は、本件事故による第一車両(LPGバルクローリー車)の損害として、シャーシ部分の新たな購入費用七八〇万八九五〇円(登録諸費用込み。乙一ないし三)、このシャーシに損傷のなかった第一車両のタンク部分を乗せ替える費用四〇一万七〇〇〇円(乙四ないし六)を要したとしてこれらを車両損害と主張する。そしてシャーシ部分を新規購入し、タンク乗せ替え費用を計上した点について、特殊車両であって同種の中古車はほぼ入手できないこと、シャーシ部分の修理見積もりは約七一七万円であって、シャーシを修理する場合にもタンク部分の脱着が必要でありこれに三五〇ないし四〇〇万円の費用が必要であったこと、シャーシ、タンク双方を新規に購入するとタンクの新規購入費用は一四〇〇ないし一五〇〇万円であるから、シャーシのみ新規購入し、タンクは乗せ換えをしたと説明する(乙一六)。

(二) しかし、右の説明によっても、シャーシ部分の新たな購入費用はシャーシ部分の修理費を明らかに上回っており、シャーシ部分が修理費と比較して経済的に全損とは言えないこと、損害賠償は、被害者の事故時の経済的損害を填補するものである以上、第一車両の当時の経済的価値を超えて賠償請求を認めるべきではないことを考慮すると、同種の中古車の入手が実際不可能であっても、被告会社の実際の第一車両に対する補修の内容はさておき、同種の中古車が入手できたならば要したであろう費用の限度で損害賠償を認めるのが相当である。

(三) 第一車両の本件事故当時の時価を検討するに、前記乙第一六号証によれば同種の中古車の入手はほぼできないというのであるから中古車としての市場価格を得ることはできない。そこで甲第一一号証により認められる第一車両のシャーシと同種である平成元年製造のトラックの新車価格七三三万円と当時のタンク(バルクローリー)の取得価格一〇一六万円に、シャーシにタンク部分を乗せる改造価格として前記乙第一六号証に照らして少なくとも三〇〇万円を加算して算出した平成元年の第一車両と同種の車の推定取得価格二〇四九万円に、第一車両の使用状況に照らして法定耐用年数を超える使用が可能であると認めるもののその耐用年数を八年(なお一年は使用できる物)として定額法による減価償却を行うと、第一車両と同種の車の本件事故当時の残存価格は二七二万五一七〇円となる。なお、乙第一六号証には被告会社が第一車両について一三年程度の使用を予定していたと述べる部分があるが、これを裏付けるに足る証拠はない。

20,490,000×0.133=2,725,170

そこで、右の額を本件事故による第一車両の損害額とすることが相当である。

2  休車損害(請求額一六五万二七五二円)一四五万五〇〇〇円

(一) 甲第一一号証、乙第九号証の一、二、第一〇号証の一ないし三、第一一号証、第一二号証の一ないし三、第一三号証の一ないし三、第一四号証の一ないし三、第一五号証の一ないし三、第一九号証、第二〇号証及び弁論の全趣旨によれば、第一車両の修理後の平成一〇年二月ないし三月の一日当たりの売上平均が一万五一三四円であること、第一車両は特殊車両であってその台数も少ないことに照らすと、平成八年の本件事故当時の第一車両の収入は少なくとも一万五〇〇〇円程度の収入は得られたものと認められる。

(二) 被告会社は、本件事故当日である平成八年八月七日から修理後に第一車両が現実に運送に使用できた日(同年一一月二二日)の前日までの一〇六日間について休業損害を主張する。そこで検討するに、乙第一六ないし第一八号証によれば、被告会社は、本件事故後直ちに修理費の見積もりを依頼したところ、見積もりができたのが平成八年八月二三ないし二五日ころであり、その後、九月上旬ころまでにシャーシ購入の発注をして同月九日にこれが納入され、タンク乗せ替え作業が同年一一月六日までかかり、更に陸運局等の登録手続を経て同月二二日から運送に使用できるようになったことが認められる。このうち見積期間は甲第一一号証の調査報告書においてもほぼ同期間を要していることに照らすと相当な期間と言うことができ、シャーシ購入の発注から納入までの期間(約一〇日)及び登録手続の期間も相当な期間ということができる。しかし、タンク乗せ替え作業期間(九月九日から一一月六日までの五九日間)は、全塗装作業を含むものであるところ、タンクの乗せ替えに全塗装までの必要性は認められないことに照らすと五〇日間が相当である。そこで、被告会社の主張期間から九日間を控除した九七日間について、本件事故と相当因果関係に立つ損害として認める。

(三) したがって、被告会社の休車損害は一四五万五〇〇〇円となる。

3  過失相殺

右の損害額合計四一八万〇一七〇円から前記認定の被告池田の過失割合を控除すると、残額は一〇四万五〇四三円となる。

4,180,170×(1-75%)=1,045,042.5

四  結論

したがって、原告らの請求は原告髙木智勢子四一四万三八四五円、原告髙木宏昇及び原告髙木克昌各自二〇七万一九二三円の限度で理由があり、被告会社の請求は原告髙木智勢子に対して五二万二五二一円、原告髙木宏昇及び原告髙木克昌に対して各自二六万一二六一円の限度で理由がある。

(裁判官 堀内照美)

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